夢の欠片、その在処は

舞鶴鎮守府で提督やってます

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

もう一つのカケラ屑

前々から考えていた、皆殺し編アフターのお話。その序章です。

ここで、原作「ひぐらし」には存在しない人物、平たく言えばオリキャラが出ます。(嫌悪感をもたれる方はご注意を)
彼はさしずめ、竜騎士07さんが出した“野村”とある意味で対極に位置するキャラ。
野村が鷹野を美化するために(そしてわかりやすく目に見える「絶対悪」がいないことを思い知らせるために)作られた、形而上の「黒幕」ならば、こちらは形而上の「正義の味方」です。
彼の「活躍」が描かれることはありません。結果はともかく、その過程も分かりやすく華々しいものではありません。

でもこういうSSを書いていて、竜騎士07さんが「赤坂を公安として」活躍させなかった理由が分かる気がしました。


 平成17年6月。
 日本でトップクラスの数の電車が行き交う東京駅。
 その一角、東海道新幹線のホームで、額の秀でた顔に古いデザインの角ぶち眼鏡をかけた中年の男が、腕時計を気にしながら立っていた。
 目の前には、彼が乗るべき新幹線が入線していたが、乗る素振りはみせずにその場で立ち尽くしている。
「すまない! 携帯で連絡した通りの事情でね、遅れてしまった」
「遅いぞ。君は時間にルーズな男ではなかっただろうに」
 眼鏡をかけた痩身の男は、息を切らして走ってきたその恰幅のいい男に、傍らに置いていた旅行鞄を持ち上げながら苦い顔で言った。
 彼が現れるのと同時に、発車を案内する放送とメロディがホームに鳴り響く。
「まあいい、話は後だ。乗るぞ」
 二人の男が新幹線に乗り込んだのは、まさにドアが閉まる間際だった。

 手にした指定券と車内を交互に見やりながら、眼鏡の男は自らの座るべき指定席を慣れない様子で探す。彼が電車を使う機会はあまりない。旅行の趣味はなく、仕事で移動するのに使うのは専ら車か飛行機だ。
 そんな眼鏡の男に比べて、恰幅のいい男はどうやら新幹線にかなり乗りなれているようだった。眼鏡の男をよそに、そそくさと自分たちの席を見つけて手招きをする。
「新幹線なんて、何年ぶりかな」
 窓側の席についた眼鏡の男は、座りなれないシートの感触を確かめるような仕草をしながら言った。
 彼が特にこだわったわけでもないが、窓側の席を譲った恰幅のいい男は、座席の肘掛に頬杖をついて皮肉っぽくまぜっかえす。
「私は、名古屋くらいで飛行機を気軽に使えるほど贅沢じゃないんでね。最近は領収書の精算とかも昔ほど気前がよくなくて困る。政府やマスコミは景気はもう回復したとか言ってるが、世知辛い世の中だ」
「自業自得の面もあるが、最近は不祥事続きで公務員への風当たりがやたら厳しいからなあ」
「でもこれで、子供達の将来なりたい職業の上位に公務員があるらしいよ。理由は安定してるからだとか。いやはやまったく」
「やれやれ、企業じゃ年功序列が崩れてるから、それがまだ色濃い公務員になりたいですか。私たちがその公務員なのは、皮肉以外のなにものでもないぞ」
「まあね。……あの頃は、若かったな。時代の移り変わりを感じるよ」
「未だ根強く変わらないものもあるがね。……それにしても、国会議員のセンセイ方は、これにタダで乗り放題なのか、羨ましいねえ。これで妙な色気を出さずにキチンと仕事をしてくれれば、私も少しは楽できるんだが。現実はそうもいかんね。そのうえ、私の仕事相手がセンセイだけじゃなくなってきてるしな」
 そういう彼も、古臭い眼鏡に髪の毛の少なくなった細面で、パッと見ではお世辞にも善人とはいえない。ドラマや映画なら大抵こういう風体の男は悪役であろう。
 しかし、彼ほど職務熱心で正義感や公正意識の強い公務員は霞ヶ関では珍しい。
「さすがは数多の汚職政治家を討ち取った鬼検事。手厳しいね」
「君も昔はそういう仕事もしていたじゃないか。まぁ最近は、ウチが君の古巣と仕事がかぶってるんじゃないかって言われてるらしいが。やっぱり時代が変わったのかねえ」
「そうだ、もう昔のことだ。今の私は桜田門の窓際族さ」
「窓際族か、ハハハ……ところで、会うたびに常々思うが、君は老けんなぁ。まだ30代かそこらにみえるぞ」
 どこか羨むようにそう言われた恰幅のいい男は、眼鏡の男と同い年、つまりは定年までの残り年数が見えてきた年齢だ。だが、確かにまだ壮年であるといっても十分通用する外見であろう。
 ほどよく筋肉のついたがっしりした体格で、それは日々身体を使い、鍛錬を怠ってないことを覗わせる。
 彼もまた、正義感の強さでは人後に落ちない。ドラマや映画なら、刑事や探偵といった、“正義の味方”役で、“悪人”を痛快にぶっ飛ばすのが画になる男だ。
 しかし、現実は大衆の求めるドラマや映画のようにはいかないのである。
 彼がそんな痛快で華々しい活躍をしたことは、半世紀あまりの人生でほとんどない。
 少なくとも仕事面では、とても地味で泥臭い、日陰の道を歩んでいる男だ。
 何かしらの記録に残る“実績”の多さと、“地位”の高さでは、傍らの窓際席にいるB級映画悪人面の男の方がよっぽど上で、ある意味では彼こそが現実の“正義の味方”だった。
「妻にも、よく言われるよ。もっとも、私にいわせれば、彼女の方が凄いがね。身体はそんなに強くないはずなのに、これがどうして、老けないもんだ」
「雪絵さんか。そういえば、君がカミさんを置いて、男同士でハイキングとは妙な話だな」
「今はまたちょっと体調を崩していてね、田舎への長旅は厳しいから、留守番さ。だけど、でかけるときに家でひと悶着あってね」
「それが、発車時刻ギリギリまで遅れた本当の理由か。こういう時は携帯があってよかったと思うよ」
「……すまないな。異動前の忙しい身で、貴重な休暇を二日も使わせて」
「まったくだ。だが、君の誘いとあっては無碍に断れんさ。検察で、早大出の私が出世できたのは、君のお陰だからな。随分と手柄を立てさせてもらったよ」
「今度の七月からは検事正だったな。おめでとう。定年までに高検検事長も夢じゃないんじゃないか?」
 出世を祝う言葉に、眼鏡の男は細面をにこりともさせず、淡々と答える。
「ありがとう。まぁ私のことはいい。……それよりも雀友としては、旅行先に“馬場の衛”を唸らせた凄腕がいると聞けば、聞き捨てならん」
「……いや、残念ながら……その人はもういないよ。もう20年以上も前に、消えてしまった」
「消えた?」
 眼鏡の男は、額の秀でた顔をわずかにしかめる。分厚い眼鏡の奥の目が、一瞬だけ光ったようだった。
「ああ。今日は、その墓参りも兼ねてるんだ。変な期待させてすまん。だが、その人がかつて通ってた雀荘は、今も残ってる。普段はご法度だが、今回は特別にお目こぼしをもらったよ。今夜は向こうの知り合いも呼んで久々に、な」
 逞しい腕で麻雀卓を弄る仕草を大仰にしてみせる大男に、痩身の男は薄い唇に微かな笑みを見せる。普段から表情が豊かとはいえない彼が、今日初めてみせたものだった。
「そうこなくてはな。今日は、“馬場の衛”と久々に手合わせできると聞いて、無理に休暇を取ったんだぞ」
「だから、その仇名は止めてくれ。恥ずかしいぞ、綾瀬」
 綾瀬と呼ばれた眼鏡の細面男は、笑みを消し、ふんと鼻を鳴らして窓の外へと顔を向ける。
「僻んでるのがわからんのか。大学時代からこのかた、私を何度も僻ませたのは、君くらいのもんさ。赤坂」
「次期検事正ともあろう方が、一介の警察官に僻むとはね。これは名誉と受け止めるべきかな」
 赤坂と呼ばれた恰幅のいい男は、苦笑しながら肩をすくめてみせる。
 赤坂と綾瀬の交わす会話は、傍目には長年来の友人であることを思わせる。実際、それはあながち間違いではなく、彼らは因縁浅からぬ間柄だった。
 しかし、親友同士かと誰かに訊かれたとして、彼らがそうだと答えるかといえば、かなり微妙なところである。
「何を言う。君だって…………、あんなことさえやらかさなければ、今頃は」
「まぁ、お陰で雪絵と今も一緒にいられると思えば、ね」
 振り向いて、穏やかではない様子で言い募ろうとする綾瀬を遮るように、赤坂はとぼけたことを言った。
 そんなおどけた様子の彼に見て、言葉の続きを飲み込んだ綾瀬は、溜息をつきながらシートの背もたれに身を委ね、正面を見ながら言った。
「相変わらず、惚気てくれるな。……愛する妻のために職務放棄。私には考えられんよ」
「あのことについては後悔してないさ。だがまぁ、後悔なき人生だったかといえば、それはまた別の話だがね」
「ほう?」
 眼鏡を片手で押し上げながら、傍らの同行者をちらりと見やった綾瀬は、赤坂の顔に微かな憂色が浮かんでいるのを見逃さなかった。元公安捜査官であり今も現役のベテラン警察官である赤坂は、人前でそうそう安易に腹の内を晒したりはしない。それに彼は元々、他人となかなか打ち解けようとしない孤独な性格でもあった。
 綾瀬も伊達に検察官を長年務めてはいない。まだ赤坂から真意を打ち明けられてはいないが、この旅が、単なる物見遊山でもなければ、大学時代以来因縁になっている麻雀を楽しむためのものでもないことくらいは端から察している。
「てっきり文化遺産の白川郷を堪能できるかと思ってたんだが、違うようだな。……行先の見当が付いたよ。赤坂が“あそこ”にこだわってることは、私も知ってる。確か、先年封鎖解除されたんだったな。今更行って何をするつもりなのやら」
「綾瀬、君が立てたあの“手柄”の種明かしをしに、ね」
 赤坂が意味深な、そして寂しげな笑みを浮かべて言った直後、新幹線はトンネルに入った。

―ひぐらしのなく頃に解 皆殺し編異聞― 「カケラ屑IF」
スポンサーサイト
二次創作 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<嬉しいような困るような | HOME | かんなぎ2話がやけに動いてたな、と思った方へ>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。