夢の欠片、その在処は

舞鶴鎮守府で提督やってます

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プロローグ

賽解し編、プロローグ(正確には「インターミッション」)を公開します。
ハッピーエンドの定義って何?
誰も死なない結末?
誰もが幸せになれる結末?
誰も不幸せにならない結末?

それとも、誰も仲間はずれにならない結末?


 ……昭和58年6月を古手梨花が乗り越えるカケラはひとつだけじゃない。
皆殺し編のカケラまでを経て、ルールX、ルールY、ルールZの正体を全て暴いた後で、私たちは様々な「ルールYをも打ち破ったカケラ」を模索したわ。
 その中には、鷹野を抹殺したり、或いは懐柔を試みたりしたケースもあった。……けど、どれもうまくいかなかった。
 幾度も失敗を繰り返して、何度くじけそうになったことか……あぁ、羽入は一度、くじけてしまったんだっけ、……あの時に。
 試行錯誤の中で、ようやく完成品にまでこぎつけたもの。それが、後に「澪尽し編」と呼ばれることになるカケラだった。
 ……しかし、その結末もまた、決して納得の行くものではなかったわ。ルールXやルールZへの対応に追われ、五年目の祟りを防ぐことができず、しかも最後の最後で羽入が力尽きてしまうという、ある意味で、古手梨花にとっては最悪の結果となってしまったのよね。


 力をどんどんすり減らしてゆく焦りとは裏腹に、なかなか望む結果は出せなかった。
 そんな思うに任せない状況に、私たちは発想と方針の大幅な軌道修正へと思い至る。
 まずひとつは、これまでさほど重視してなかった、自分に関係のない人間たちの思いにも目を向けること。過去から現在、更には……未来。積み重ねられた様々な思いを改めてかき集めて、いろいろなカケラを調べて、根気強く紡ぎ直した。
 その試みは、ゲーム盤での駒の配置と行動が、これまでになく驚くほどスムーズかつ理想的に成されるという大きな成功をもたらした。
 特に大きかったのは、ルールX、ルールZが予め完全に打破された状態でルールYへ立ち向かえるという、皆殺し編のカケラをも上回る理想的な状況を生み出せたことね。
圭一もレナも詩音も狂気に囚われることなく、また、レアなケースである北条鉄平帰宅のイベントを経ることなしに園崎お魎が北条沙都子への思いやりを見せるという状況すら生み出した。
 お陰で後顧の憂いなく、全力でルールYへと立ち向かえたのだ。
 更には、過去のカケラへと目を向けたことで、暇潰し編のカケラの隅っこに転がっていた未来のカケラを“偶然”見つけ出し、赤坂が最強の駒として、澪尽し編のカケラよりも理想的なタイミングで登場するという成果をも生み出した。
 最後の最後で、あの輝かしき“カケラ”を紡ぎ出せたのは、まさにこの“カケラ紡ぎ”の成功によるものが大きい。逆にいえば、澪尽し編のカケラが不完全かつ不本意な結果に終わったのはこれが原因ともいえる。
 ただ、あれは羽入一人でこなすにはあまりに苦痛な作業ではあったから、諦めてしまった羽入を責めることはできないけど。

 そしてもうひとつの方針転換。それは、古手梨花の扱いだった。
 皆殺し編で壮絶な最後を迎えて、屈辱と苦痛を代償に、鷹野三四が敵であるという記憶を引き継ぐ――当初それは、当然かつ絶対の方針であると思っていた。
 実際、澪尽し編のカケラをはじめとする、上手くいかなかった多くの試作カケラは梨花が記憶を引き継ぐことを前提に紡ぎだされている。
 しかし相次ぐ失敗に、いつしか私たちは、果たしてそれが最善の手段なのか、大きな疑問を覚えるようになっていた。
 敵の正体を知っていること。確かにそれはゲーム盤において重要なアドバンテージ足りうる。反則といってもいい。
 けど、私たちはいつしかこう思いはじめたの。……必ずしも、古手梨花があの記憶を引き継ぐことに固執することはないのでは、と。たとえ、梨花が引き継げなくとも、もうひとり……。
 そんな発想の転換をしてみると、まるでコロンブスの卵のごとく、思いがけないことに幾つも気づくことになった。


 記憶の継承は、決していいこと尽くめではない。
 最大の問題は、引き継ぐべきものと考えていた皆殺し編のカケラでの顛末があまりにも惨烈であることだった。
 仲間たちを虫けらのように殺し、梨花の身体を己が喜びのためだけの玩具に堕した、鷹野三四――記憶を引き継いでしまうと、梨花はそんな彼女への憎悪がどうしても拭いきれないのだ。数多の世界を渡り歩き、人の世の外側へ足を踏み入れたとは言っても、古手梨花は所詮、人の身であるから。
 あの輝かしき“カケラ”が上手くいったのは、梨花が記憶を引き継ぐことなく、鷹野への敵意と憎悪を過剰に募らせることがなかったからかもしれない。
 そして、鷹野への憎悪は同時に恐怖と躊躇をも生み出すことになる。
失敗した試作品――澪尽し編のカケラは、まさに皆殺し編の記憶がかえって梨花を自縄自縛に陥らせてしまった好例といえるわね。理由はほかにもあるけど。

 また、皆殺し編の記憶を引き継いでしまうと、古手梨花は前原圭一へ目を向けすぎる、という傾向も無視できなかった。
 圭一は確かに、ルールXへの抗いとルールZ打破での決定的な鍵となってくれた。だが、ルールYを打ち破る鍵ではなかった。
 皆殺し編のカケラの記憶を引き継ぐと、梨花は罪滅し編や皆殺し編のカケラでの活躍に幻惑されて、圭一をルールYをも打ち破る存在と錯覚してしまうのだ。
 更には、罪滅し編のカケラ以前、梨花の知りうる範囲では何の成果も見せず、皆殺し編のカケラでは事実認識の行き違いからひどく残念なすれ違いとなってしまった赤坂への諦観と失望もセットで引き継ぐという弊害もあった。赤坂を強く信頼し、期待しようという意識の醸成がどうしても遅れてしまうのだ。
 梨花に記憶を一切引き継がせないというこの大胆な転換は、圭一へ過度に期待せず、赤坂との連携をスムーズにするという、輝かしき“カケラ”序盤の流れを大きく転回する結果をもたらした。
 ……私は、これは間違っていなかったと思う。むしろ、どうしてもっと早くこの発想に至れなかったのかと悔やんだくらいだ。
 鷹野への憎悪と恐怖の記憶を明確に引き継がなかったことで、梨花は冷静になれた。引きかえに、罪滅し編や皆殺し編のカケラで培った――前原圭一が私に教えてくれた、どんな運命にも屈服することはないという強い意思を…………一時的に失ってしまったけど。
 古手梨花を屈服させる運命には古手梨花自身が先頭に立って打ち勝つべき、というこだわりが、結局はロマンチストな思い込みだったのだ。皆殺し編のカケラで、竜宮レナの問いかけた言葉を、思い出してみて?


 ――あなたは、信じてくれてた?


 あれは、誰に向けた問いかけだったのか。その解釈が間違っていたのが、澪尽し編のカケラが失敗に終わった原因かもしれない。


 そんな失敗を幾度も繰り返して、……長い旅の果てに、私たちがようやく紡ぎ出せた輝かしき“カケラ”……その名を「祭囃し編」のカケラという。
 これこそが、私たちの望んで止まなかった完全なるハッピーエンド。
 敗者のいない、世界。
 それを得た以上は…………もう、試作した数多の失敗作のカケラなどに興味はない。…………うん?
 これは、……何?
 小さなカケラ屑が転がっている。カケラも時にはひびも入るし、割れたり欠けたりもする。
 欠けた運命は、もはや別の運命だ。ならばこれは、本来何に欠けていた運命なのか。
 …………あぁそういえば、前にもこれとまったく同じことがあったわね。あれを見つけたことが、赤坂を祭囃し編のカケラで最強の駒へ昇華させたのだ。
 そんな前例があるだけに、私は興味を抱かずにはいられなかった。
 私はその新たなカケラ屑を拾い、……私の持ついくつかのカケラにうまく合わさらないか、色々と試してみた。しかし、なかなかうまく行かない。私がよく触れるカケラはどれも違うようね。
 そうして、最後に手に取ったカケラが、……これがなんと澪尽し編のカケラだった。
 かつて失敗作だと投げ出してしまった、しかし祭囃し編のカケラのたたき台にもなったカケラだ。
 そうだ。……確か祭囃し編のカケラを開くときに、もう一度手に取って参考にしたんだったわ。既に定まった運命、開けてしまった箱――経験を振り返ったのよね。
 失敗は成功の母という。その意味では、失敗作のカケラもあながち無駄とは言い切れない。力をすり減らし、辛い思いをした代償は決して小さくはなかったけど。
 結局のところ、祭囃し編のカケラを紡ぐのに一番参考になった――土台となったのは、澪尽し編のカケラだったのだ。土台というよりは、機械のパーツ取りに似ているかしら。
 そのため、両者はどこか似ている。祭囃し編を陽のカケラとすれば、こちらは陰のカケラか。
 元々試作品であったこのカケラは中途半端で歪んでいた代物だが、あの時手に取って弄ったせいか、今はさらに歪な形をしていた。
 その、歪な部分に……、ほら。ぴったり合った。つまり、これは澪尽し編のカケラ屑、とでも言うべきだろうか。
 一体、このカケラ屑がくっつくと、今度は……どう世界が変わるというのか。どんな、奇跡が起こるというのか。

 ……奇跡。

 そんなもの今更興味はないはずなのだけど……、気になる。
 好奇心。……私にも、まだそんなものが残っていたのか。いや、退屈は私の敵だから尚更、その類の感情は強いのかもしれないか。

 前と同じく、世界が歪み、空間が震える。一度割れたものをくっ付けなおしたのだから、断層で屈折が起こるのだろう。
 ……でも、覗けないわけじゃない。そこはもう、昭和58年の8月を過ぎている。あれはあれで袋小路を一応脱したのだから当然か。

 ……………………?
 ……な!?
 何よこれ、これは一体……!!!?
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