夢の欠片、その在処は

舞鶴鎮守府で提督やってます

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

修繕前のものを

次の記事を書くまでの間に限り、以前某サイトで掲載させて頂いていたSSを再公開します。
というのも、今回新たに最終章第二話として再構成することになったためです。


改訂版は梨花と沙都子のシーンなどを加筆修正する予定。


第二話「月夜の舞踏」(※修繕前)

 帰りの準備を始めていた圭一に、梨花は背後から突然小さく声を掛けた。
「圭一、今夜はボクに付き合ってくれませんですか?」
 シャツをくいくいっと引っ張られて振り向いた圭一は、真意を計りかねるように首を傾げる。聞きようによっては、そして歳が歳ならちょっとアレな誘い文句にも思えたからだ。
「今夜……か? 梨花ちゃんのお誘いとあらば喜んで行くが。でも夜に密会とは随分大胆じゃないか? ちょっとドキドキするぜ」
「圭一が何を想像してナニを期待してたのかはあえて詮索はしないのです。ちなみに今夜は十五夜なので、一緒に神社でお月見をしたかったのですよ、にぱ~☆」
「そ、そうだったのか。取り敢えず、深く詮索しないでくれるとありがたいぜ」
 ちょっと邪なというか疚しい想像をしてしまった圭一は、ばつの悪そうな顔をして窓の外へと視線を向ける。綺麗な夕焼け色に染まった空がそこにはあった。少なくとも、この後急に天気が崩れて、雨が降りそうには思えない。あとは雲が広がらない事を祈るばかりだ。
「この分だと天気は大丈夫そうだな。何か持っていくか?」
「それじゃ圭一にはお供えのススキをお願いしますのです。お月見団子とお茶はボクが用意しますですよ。お団子は手作りに挑戦なのです」
地方によって違いはあるが、基本的に月見団子とは、上新粉を砂糖と水で練って丸めたものをお湯でゆでるだけのシンプルなものである。
 因みにその作り方を梨花に教えたのは羽入である。羽入が俗世にいた頃から、中秋の名月を愛でて貴族や神職が宴会を催す習慣自体は既にあったのだ。梨花と一緒にいた頃の彼女は積極的にお月見を勧めていた。甘い物好きでお団子が目当てだったというのもあったのだろうし、何より当時出口の見えない運命の袋小路に閉じ込められていた梨花や、昭和57年に兄が居なくなって同居することになる沙都子の心を少しでも和ませてあげたいという心遣いであったのだろう。
「了解。中秋の名月か……梨花ちゃん、結構風流なんだな。俺なんかは団子が楽しみだ、なんて食い意地張ってて恥ずかしい限りだぜ」
「みー、これでもボクの家は神社でボクは巫女なのです。昔のお月見は秋の収穫祭も兼ねてましたですから、神社にとっては結構大事なイベントだったのですよ。それに――」
 そこで梨花は喜んでいるような悲しんでいるような、複雑な笑顔を見せてぽつりと言った。
「昭和58年のお月見は初めてなのですよ。そして圭一が一緒なのも初めてなのです。ボクにとってそれがどれだけの意味を持つか、今の圭一なら……分かってくれると思いますです」
 これまで梨花が嗜んだのは専ら昭和57年以前のお月見である。彼女にとって昭和58年のお月見を羽入と一緒に嗜めなかったのは非常に残念な事ではあった。
「あぁ、分かるぜ。今年の月見は梨花ちゃんにとって、死の運命を打ち破れた事を祝う大事なイベント、そして新鮮な経験ってことだな。綺麗な月を眺めて、辛いことは忘れて心を和ませるとするか」
 この時の圭一は、言葉の後半にそれほど深い意味を込めて言ったつもりはなかった。梨花が誘った「もう一つの理由」をまだ知らなかったから―――



「こんばんは、梨花。今夜は月が綺麗に見えて何よりだな」
 一足先に神社本殿正面前に腰掛けて待っていた梨花に、ススキを持って現われた圭一が声を掛ける。
 昼間学校に居た時とは異なり、圭一は梨花の事を呼び捨てで呼んだ。今のところこれが、付き合うようになってからの習慣である。
 もう少し早く圭一の来訪に気付いてもおかしくはなかったのだが、どういうわけか梨花は冴えない顔でぼんやりとしていたのだ。
「!! ……こんばんは。今夜は一段と月の綺麗な夜ね」
「ん?」
 一瞬だけ圭一が奇妙なものを見るような目つきになったので、梨花は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや……何でもない。その挨拶、何処かで誰かにされた事がある気がしただけだ。ハッキリとは思い出せないけどな。…って言うか梨花の方こそどうしたんだよ?」
「えっ?」
 持ってきたススキ入りのビンを梨花が用意していた月見団子の隣に置くと、圭一はそのまま彼女のすぐ横に腰を下ろす。訪れた時に浮かべていた微笑は消え、険しい視線で梨花の顔を覗きこむ。
「さっきから、浮かない顔をしてたじゃないか。とても月見を楽しんでたって風には見えないな」
「……」
「話したくないのなら無理に言わなくても良いぜ。でも、話してくれるのならどんな話でも聞くぞ」
「圭一……私……怖い、怖いの。こういう綺麗な月夜の晩が、時々無性に怖くなるのよ。“あの世界”の最後の夜を思い出してしまって――」
 圭一が現われた時から、梨花は月を一回も見上げようとはしていなかった。
 そんな彼女の顔から視線を外して、圭一は空に浮かぶ月をじっと見つめる。
 因みに、厳密に言うと十五夜――中秋の名月の晩の月が満月とは限らない。だが、満月の月齢に前後一日かそこらの誤差しかないので、見た目にはほぼ満月に近い。普通の人なら、まず間違いなく「美しい」と思える光景なのだが―――
「あぁ、あの話か。『前の世界』の――」
 一ヶ月程前に、圭一は“その世界”のあらましを聞いていた。一致団結した部活メンバーが鷹野の魔の手を打ち破ろうとするも果たせず、皆殺しにされてしまう世界。そして一人残された梨花は、生きたまま、意識を保ったまま腹を裂かれるのだ。
 梨花はその記憶をほぼ引き継いでいる。つまり――仲間が殺される光景も、自らが死ぬ痛みも。
「やっぱり、重かったんだな。その記憶が」
「ちょうど、こんな風に月の綺麗な晩だった。“前の世界”で私が…みんなが殺されたのは」

――本当に月の綺麗な素敵な夜だこと。ね、あなたもそう思わない?――

 梨花以外の部活メンバーを皆殺しにした後、哄笑する鷹野はそう話しかけてきた。
 勝ち誇る彼女の顔を、梨花は脳裏に焼き付けようとした。忘れたくないと願い、喜ぶ鷹野の眼前で殺されるその屈辱と痛みを魂に刻み付けたのだ。
 その世界の、最後の光景。それは――月。
 勝ち誇る鷹野の背後に見えた、真っ白な月が、次第に朱に染まっていった。腹を引き裂かれる痛みと共に――。
「そういえば、俺も覚えがあるような気がするな。こんな月の晩に……何処かで、鷹野……さんに薄気味悪く笑いかけられた事があるような気がする」
 梨花のそれにくらべれば、本当におぼろげではあったが、圭一にも月夜の晩に好ましからざる記憶があった――かのように思えて少しだけ悪寒を覚える。その輪郭をハッキリとはどうしても思い出せなかったが。
「鷹野に打ち勝つために、戦っている間はさして気にならなかった。でも……全てが終わって、運命の壁を打ち破ってしまったら、今は――時々思い出しては怖くなるのよ。綺麗な筈の月が、冷たくて痛くて、気味の悪いものに見えてしまうことがあるの。だから、今宵はどうしても圭一に傍にいて欲しかった。さっき沙都子とお月見した時はうまく平静に振舞えたけど……それもいつまで保てるか自信がなかった。だから今夜は来てもらったのよ」
 流石に別の世界の記憶云々の話だけは、親友の沙都子相手と言えどもおいそれとは話せない。こればっかりは、この世界で自身もおぼろげに別の世界の記憶を持ち、既に全てを打ち明けてそんな感覚を共有しあっている圭一にしか吐露出来ない事ではある。
 記憶を引き継ぐという事は、確かにその世界の梨花の願いであった。次なる世界で運命を打ち破るために。それが叶うということは、しかしとても残酷で辛い意味を持ってもいた。
 閉ざされた運命の壁を乗り越える戦いに勝つために選んだその手段が、今は梨花の心と身体に陰を落として苛んでいたのだ。
「梨花」
 お腹を抱えて俯く梨花に努めて平静な声で話し掛けながら、自らの膝を圭一はポンポンと何度か叩く。
「……っ!」
 彼の誘いに躊躇せず、梨花は己が特等席に身を置いた。この二ヶ月余りの間に手に入れた、自分だけの居場所に。
「やっぱり、ここよね。ここがいい」
 抱きかかえられて顔をほころばせた梨花の瞳には、微かに涙が滲んでいた。いろいろな感情がこもっていて、自分でもその涙の意味はよく解らなかったが。
 普段は誘われるまでもなく、二人っきりになれば梨花の方から進んで腰掛けるのが当たり前であったから、どちらかというとこうして圭一の方から促されるのは珍しかった。しかも圭一は何故か梨花を正面へは向かせず、横向きに腰掛けさせる。いつもは自らを椅子に見立てて、胸板を背もたれ代わりにする形で座らせるのに。
「まだ、震えてるな。それじゃあ――」
「んっ」
 両腕で梨花の身体をしっかりと抱え込んだまま、圭一は己の唇を彼女のそれに押し付けた。いつになく強引に、しかし意外に長くは触れずあっさりと放す。
 ――かと思いきや、一瞬息を吸うとすかさずもう一度。今度は右の掌を彼女の頬に添えて更に強く、押し付ける。今度は右手を梨花の頭に添え、舌で一方的に彼女の口をこねくり回す。
「「ん……ん……」」
粘液が絡みつく音と僅かな呻き声が漏れる。いきなりの事に、梨花は最初ひどく驚いて戸惑っていたが、甘美な感覚に身を任せて次第にどうでもよくなっていく。
 一切抵抗がないのをいい事に、その後圭一は更に二度までも濃厚な口付けを無防備な彼女にお見舞いするのだった。
 
「……はぁ、はぁ…これで少しは落ち着いたか?」
「……っはぁ、はぁ……落ち着くどころか、……あぅ」
 先程とは少し違う意味で目を潤ませた梨花は、口の中を蹂躙された余韻で上手く呂律が回らない。勿論頬が真っ赤なのは言うまでもなく、そんな顔に魅せられて貪欲にもう一度口付けしたくなるのを堪えながら、圭一はその頬を撫でながら囁きかける。
「最初は安心させようと思っただけだったんだが、月明かりに照らされた梨花の顔見てたら、興奮して止らなくなっちまった」
「……け、圭一は、狼男みたいなのです……ボクは美味しく食べられてしまうのです。みー」
気恥ずかしさを少しでも紛らわせるために、梨花はおどけた口調で冗談を言う。もっとも、単なる冗談という訳でもなかったりするが。
「ハハハ、流石にちょっとやり過ぎだったな。狼男じゃないけど、何か、月明かりの下だと、人は興奮することがあるって話を何処かで聞いた事があったような…。う~ん、何処で聞いたんだっけか?」
 何故か自分の発言に軽いデジャヴのような奇妙な感覚を覚えながら、圭一は笑った。
 月には人を興奮させて、普段と一味異なる高揚感を与えると魔力があるという。月に狂う、ルナティックって言ったらしい。
 それだけではないかもしれない、と梨花は思う。圭一は普段は滅法奥手で、ここ最近で急に貪欲になった梨花が積極的かつ強引にリードしている。ところが時折彼女が怯んだりすると、そういう時に限って彼はこうして激しく燃え上がる。梨花が立ちすくむのを決して許さないのだ。彼女には、その炎がとても熱く、そして温かく感じられた。
 そんな感慨に耽りながら、キスの余韻に浸って梨花がぼ~っとしていると、いきなり腹部をそっと撫でられる感触がして身体をびくんっと反応させた。
「っ!! ……な、何?」
 仮にも女の子が臍のあたりを撫でられるというのはそうそうあることではない。沙都子とじゃれあったり、診療所の診察で擦られるくらいだ。妊婦でもあるまいし、異性にお腹を撫でられるというのはどことなく卑猥な感じがしたが、圭一に下卑た意思があるようには見えず、至って真面目な眼差しであった。
「ご、ごめん。驚かせちまったか、…もう終わったんだ。梨花のお腹が裂かれるなんてことは二度とない、もうありえない。大丈夫だからな、安心してくれ」
 硝子細工を扱うようにそっと撫でていた圭一の手に、梨花は自らの手を重ねる。ただの気のせいかも知れなかったが、腹部がぽっと熱を帯びたように思えた。今、確かに生きている、という実感と安らぎと共に――。
「圭一。……そうね、そうよね。あの痛みに耐えたからこそ、今、この感覚を味わえると思えば――でも、圭一。女の子のお腹をいきなり撫でちゃダメよ。こんな事情のある私だから特別に許して上げるけど、他の女の子にやったら痴漢で捕まってしまうわ、くすくす」
「そ、そんな意図は全く無いぞ、信じてくれ。安心させたかっただけなんだ」
 意味もなく動揺する圭一に、梨花は悪戯っぽく笑う。そうしていると、今でも甦ってくるあの痛みの感覚を、ほんの一時でも確かに忘れられた。
「わかっているわ、信じてあげる。これからも、時々こうしてくれないかしら?あの苦痛を忘れられる日まで……」
「それで安心できるなら、もちろんお安い御用さ。…そうだ。ちょっと、そこまで来てくれ」
 突然圭一は梨花を膝の上から降ろすと、腰掛けていた階から下りて、神社本殿脇の集会所との間にある小さな広場に立つ。彼の意図がさっぱり解らず、梨花はその場に立ったままきょとんとするが、振り向いて手招きをされたので、のろのろと歩み寄った。
 あと二歩、という間合いまで近寄ると、不意に圭一は右手を差し出す。広げた掌を真上に向けて。
「それだけの辛い記憶、そう簡単に忘れろっていう方が無理だろうな。なら、上書きして塗りつぶしてしまえば良いんだ。辛くて冷たくて痛い記憶を、幸せで温かくて楽しい記憶で塗り替えてしまえば良い。…さあお嬢さん、お手を拝借」
「圭一?」
「踊りましょう、“私”と」
 掌を差し出したまま、急に芝居がかった口調と仕草になる圭一に戸惑いながら、梨花が掌を重ねると、彼はそれをぎゅっと握りながら腕ごと引っ張る。ますます驚いて目を丸くする梨花に構わず、くるくると回りながらステップらしきものを踏む。
 その足取りはお世辞にも優雅でもなければ滑らかでもなく、かなりぎこちなかったが、圭一がダンスを踊っているのだというのは、遠心力に振り回されながら理解できた。
「大石さんがさ、最近社交ダンスの勉強をし出したんだよ。何でも、警察を定年で辞めたらダンス教室を開くつもりらしい。『老若問わず奥様方を招いて優雅に踊りながら晩年を過ごしたいんですよ』なんて言ってたなぁ。この前興宮で偶然会ったら、警察署の同僚の人達があまり成りたがらないからって、一度練習相手にされたんだ」
 くるくると、心持ち激しい動きをしながらなので、微かに息を切らせながら圭一は言った。
 
 六月の戦いにも関わり、追い求めていた連続怪死事件の真相、その一部始終を知った大石は、引退を見据えていた。定年を迎えた後も綿流しの祭までは指導員としてオブザーバー的な立場で留まり、六年目の事件が模倣犯や愉快犯の手で引き起こされないように見守るのを最後に、北海道へと移住するつもりでいる。
 その移住先で始める第二の人生の糧が、ダンスという訳であった。

「前の学校でも、一度だけダンスを踊った事があったんだ。男子と女子が一列ずつ円陣を組んで代わる代わる組むやつ。女の子の手を取ってステップを踏むのは、結構恥ずかしかったなぁ」
 雛見沢分校ではキャンプや体育祭でダンスを踊る、という行事は無いので、それは梨花にとって全く知らないイベントであった。そもそもダンスなんて、幼い頃の童話の絵本あたりでしか見聞きした事が無い。王子様とお姫様がお城のパーティで踊る、といった類のあれだ。
「こうやって月の光に照らされて踊るってのも、なかなか粋なもんだろ?神社の前でダンスって言うのはミスマッチかもしれないがな」
「ふふふっ、そうね。何だか童話の中のお姫様になった気分だわ」
 いつの間にか戸惑いの色は消え、梨花は楽しそうに、屈託なく笑ってみせる。全く経験がないため、圭一以上におぼつかない足取りであり、時折ステップを踏み損ねて失敗してしまうが、お互いにそんなことは全く気にならない。ただ、夢中で踊り続けた。
「その顔…それでいいんだ。月夜の晩にこんな楽しい思いをしたって、記憶に刻まれる――いや、思い出が出来るだろ。これで、そのうち怖い思いもしなくなるさ。いつかきっと、乗り越えられるぜ!きっとだ!!」
 テンションが上がるに従って動きも激しくなり、圭一の息は荒い。それでも精一杯力強い声と笑みを浮かべて見せる彼に、自らも息を切らせながら梨花も力強く応える。
「ええ! 大丈夫よ!私はきっと乗り越えて見せる。あなたが傍にいてくれて、ここまでしてくれるのだから、きっと!」
「ああっ! 俺はそのために傍に居るんだぜ!梨花の力になるためにな!!」


 二人は、お月見という当初の目的も、時間が過ぎるのも忘れて、息が上がってへとへとになるまで、ひたすら踊り続けた。
 
 観客が誰も居ない、二人っきりのダンスを――月夜の晩に。
スポンサーサイト
二次創作 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<設定資料が欲しくなった | HOME | メトロに乗って>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。