夢の欠片、その在処は

舞鶴鎮守府で提督やってます

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |

01

……まだ、いたのね。
そういえば、気が長くて辛抱強いのが唯一の取り柄だとか言っていたっけ。この終わりなき永遠と無限の世界でここまでいられるとは思わなかったわ。
お久しぶり。あなたと最後に話をしたのは、もうどれくらい前だったかしら。
確か――あなたが『澪尽し編』のカケラを引っ張り出してきた時だったわね。
「昭和58年6月を超えた古手梨花の幸せ」を、好きなように――信じるままに紡いで見せなさい、という私の余興であなたは異彩を放っていた。
あなた以外の大半は『祭囃し編』のカケラを紡いだというのに、あの『澪尽し編』のカケラを探し出してきたのだから――いえ、それ自体は別に特筆すべきことでもないか。
あなたを除く『澪尽し編』のカケラを選んだものはすべて、古手梨花が『皆殺し編』世界の記憶を継承している―前提条件を最大にして唯一の拠り所にしていたのに、あなたの目の付け所は違った。
それこそが、このカケラ遊びで異彩にして異端な考え。私もそういうものの見方もあるのかと唸ってしまったわ。
素直に褒めるべきかは微妙なところだとは思ったけれど。
だってそれは「古手梨花の幸せ」とは真っ向から矛盾することだったから。最後まで綺麗に紡ぐのは難しいでしょうね、精々頑張ってごらんなさいな、と半ば突き放すように言ったのが最後だったわ。
案の定というべきか、あなたは相当苦労したみたいね。
残っているのは……もうあなたが最後みたいだし。思いのほか、古手梨花の幸せを紡ぎたがるのは結構多くて驚いたのも今は昔。――古手梨花の相手に前原圭一を選びたがるのが多かったのも驚いたっけ。あれだけ賑わったのに、すっかり寂しくなっちゃったわね。祭りの後というのはこういうものなのかしら。
……そう、やっと紡いだのね。あまりにも時間がかかりすぎて……時間が無限にあるというのも考えものだわ。
私もカケラに触れなくなって久しいから、感覚を取り戻さないと。

……もともと、『澪尽し編』とは失敗作のカケラだった。
皆殺し編のカケラまでを経て、ルールX、ルールY、ルールZの正体を全て暴いた後で、私たちは様々な「ルールYをも打ち破ったカケラ」を模索した。
その中には、鷹野を抹殺したり、或いは懐柔を試みたりしたケースもあった。……けど、どれもうまくいかなかった。
幾度も失敗を繰り返して、何度くじけそうになったことか……あぁ、羽入は一度、くじけてしまったんだっけ、……あの時に。
試行錯誤の中で、ようやく紡いだ試作品。それが、後に『澪尽し編』と呼ばれることになるカケラだった。
……しかし、その結末もまた、決して納得の行くものではなかったわ。ルールXやルールZへの対応に追われ、五年目の祟りを防ぐことができず、しかも最後の最後で羽入が力尽きてしまうという、ある意味で、古手梨花にとっては最悪の結果となってしまったのよね。
力をどんどんすり減らしてゆく焦りとは裏腹に、なかなか望む結果は出せなかった。
そんな思うに任せない状況に、私たちは発想と方針の大幅な軌道修正へと思い至る。
まずひとつは、これまでさほど重視してなかった、自分に関係のない人間たちの思いにも目を向けること。過去から現在、更には……未来。積み重ねられた様々な思いを改めてかき集めて、いろいろなカケラを調べて、根気強く紡ぎ直した。
その試みは、ゲーム盤での駒の配置と行動が、これまでになく驚くほどスムーズかつ理想的に成されるという大きな成功をもたらした。
特に大きかったのは、ルールX、ルールZが予め完全に打破された状態でルールYへ立ち向かえるという、皆殺し編のカケラをも上回る理想的な状況を生み出せたことね。
圭一もレナも詩音も狂気に囚われることなく、また、レアなケースである北条鉄平帰宅のイベントを経ることなしに園崎お魎が北条沙都子への思いやりを見せるという状況すら生み出した。
お陰で後顧の憂いなく、全力でルールYへと立ち向かえたのだ。
更には、過去のカケラへと目を向けたことで、『暇潰し編』のカケラの隅っこに転がっていた未来のカケラを“偶然”見つけ出し、赤坂が最強の駒として、『澪尽し編』のカケラよりも理想的なタイミングで登場するという成果をも生み出した。
最後の最後で、あの輝かしき“カケラ”を紡ぎ出せたのは、まさにこの“カケラ紡ぎ”の成功によるものが大きい。逆にいえば、『澪尽し編』のカケラがいつも不完全かつ不本意な結果に終わっていたのはこれが原因ともいえる。
ただ、あれは羽入一人でこなすにはあまりに苦痛な作業ではあったから、諦めてしまった羽入を責めることはできないけど。
そしてもうひとつの方針転換。それは、古手梨花の記憶の継承。
『皆殺し編』で壮絶な最後を迎えて、屈辱と苦痛を代償に、鷹野三四が敵であるという記憶を引き継ぐ――当初それは、当然かつ絶対の方針であると思っていた。
しかし相次ぐ失敗に、いつしか私たちは、果たしてそれが最善の手段なのか、大きな疑問を覚えるようになっていた。
敵の正体を知っていること。確かにそれはゲーム盤において重要なアドバンテージ足りうる。反則といってもいい。
けど、私たちはいつしかこう思いはじめたの。……必ずしも、古手梨花があの記憶を引き継ぐことに固執することはないのでは、と。たとえ、梨花が引き継げなくとも、もうひとり……。
そんな発想の転換をしてみると、まるでコロンブスの卵のごとく、思いがけないことに幾つも気づくことになった。
記憶の継承は、決していいこと尽くめではない。
最大の問題は、引き継ぐべきものと考えていた皆殺し編のカケラでの顛末があまりにも惨烈であることだった。
仲間たちを虫けらのように殺し、梨花の身体を己が喜びのためだけの玩具に堕した、鷹野三四――記憶を引き継いでしまうと、梨花はそんな彼女への憎悪がどうしても拭いきれないのだ。数多の世界を渡り歩き、人の世の外側へ足を踏み入れたとは言っても、古手梨花は所詮、人の身であるから。
あの輝かしき“カケラ”が上手くいったのは、梨花が記憶を引き継ぐことなく、鷹野への敵意と憎悪を過剰に募らせることがなかったからかもしれない。
そして、鷹野への憎悪は同時に恐怖と躊躇をも生み出すことになる。
失敗した試作品――『澪尽し編』のカケラは、まさに『皆殺し編』の記憶がかえって梨花を自縄自縛に陥らせてしまった好例といえるわね。理由はほかにもあるけど。
また、『皆殺し編』の記憶を引き継いでしまうと、古手梨花は前原圭一へ目を向けすぎる、という傾向も無視できなかった。
圭一は確かに、ルールXへの抗いとルールZ打破での決定的な鍵となってくれた。だが、ルールYを打ち破る鍵ではなかった。
『皆殺し編』のカケラの記憶を引き継ぐと、梨花は『罪滅し編』や『皆殺し編』のカケラでの活躍に幻惑されて、圭一をルールYをも打ち破る存在と錯覚してしまうのだ。
更には、『罪滅し編』のカケラ以前、梨花の知りうる範囲では何の成果も見せず、『皆殺し編』のカケラでは事実認識の行き違いからひどく残念なすれ違いとなってしまった赤坂への諦観と失望もセットで引き継ぐという弊害もあった。赤坂を強く信頼し、期待しようという意識の醸成がどうしても遅れてしまうのだ。
梨花に記憶を一切引き継がせないというこの大胆な転換は、圭一へ過度に期待せず、赤坂との連携をスムーズにするという、輝かしき“カケラ”序盤の流れを大きく転回する結果をもたらした。
……私は、これは間違っていなかったと思う。むしろ、どうしてもっと早くこの発想に至れなかったのかと悔やんだくらいだ。
鷹野への憎悪と恐怖の記憶を明確に引き継がなかったことで、梨花は冷静になれた。引きかえに、『罪滅し編』や『皆殺し編』のカケラで培った――前原圭一が私に教えてくれた、どんな運命にも屈服することはないという強い意思を…………一時的に失ってしまったけど。
古手梨花を屈服させる運命には古手梨花自身が先頭に立って打ち勝つべき、というこだわりが、結局はロマンチストな思い込みだったのだ。『皆殺し編』のカケラで、竜宮レナの問いかけた言葉――あなたは、信じてくれてた?
あれは、誰に向けた問いかけだったのか。その解釈が間違っていたのが、『澪尽し編』のカケラが失敗に終わった原因かもしれない。
そんな失敗を幾度も繰り返して、……長い旅の果てに、私たちがようやく紡ぎ出せた輝かしき“カケラ”……それこそが『祭囃し編』のカケラ。
これこそが、私たちの望んで止まなかった完全なるハッピーエンド。
敗者のいない、世界。


……でもあなたは、それこそが間違いだったのだと言って聞かなかったっけ。
そういえば、あなたと同じ視点で『祭囃し編』からカケラを紡いだのがたったひとりだけいたような気もするわ。
そのカケラでは、古手梨花はすっかり堕落した生活を送っていて、それを憂いだ羽入は――あれはいい出来だった。さしずめあなたは、そのさらに「先」を描こうとしたというべきか。
まだ紡いでいる途中だったカケラを一度だけ見せてもらった時、私は古手梨花がここまでベタベタに前原圭一に心を許すのか、と真っ先に疑問に感じたのだけれど。まるで未来の世界の……そう、安っぽい『ぎゃるげェ』みたいねと皮肉ってしまったのは覚えているわ。
そうしたら、あなたは最後に妙なことを言ったわね。
『ぎゃるげェ』なら古手梨花が前原圭一に攻略されるところだけれど、これは古手梨花が前原圭一を攻略する物語なのだから――と。
難易度は最甘で最悪。最後の敵は鷹野なんて話にならないくらいに極悪の鬼。
なぜあなたは「彼女」をそこまで敵視するのかはまだよくわからないけれど、このカケラを最後まで見ればわかるみたいだから、見てみましょうか。

昭和58年6月から抜け出した古手梨花が、人生でもっとも甘い幸せともっとも辛い苦しみを迎える、物語。



あなたの代わりはいない。
誰にもあなたと同じだけの時間を私と過ごすことは出来ないから。

あなたの代わりはいない。
誰にもあなたと同じだけの呪いを私にかけることは出来ないから。

彼の代わりはいない。
たとえあなたでも彼をこえることは出来ないのだから。

                 Frederica Bernkastel






スポンサーサイト
二次創作 | コメント:0 | トラックバック:0 |
| HOME |


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。